【BCP】災害から学んだ“いざ”という時に備えることの重要性
今回は、エール保険事務所の本店からお届けする。
私が災害の現地調査係として派遣された際、発生した被害や被災時の企業の対応を肌で感じ、またそれらを通して得られた所見をお伝えしたい。
【災害から学んだこと】
2011年の東日本大震災で未曽有の被害に見舞われて以来、日本において【事業継承計画(BCP)】作成の必要性が叫ばれてきた。
(※事業継承計画(BCP)とは・・・Business Continuity Planの頭文字を取ったもので、緊急事態が発生した際に、事業の復旧・継続が行えるような計画のこと)
そして、現在に至るまでに日本の企業における「BCP策定率」が上昇してきたことは明らかである。
しかしながら、東日本大震災以降も自然災害が毎年のように発生している。
・熊本地震(2016年)
・大阪府北部地震(2018年)・平成30年7月豪雨(2018年)・北海道胆振東部地震(2018年)
・令和元年房総半島台風15号(2019年)
・令和元年東日本台風19号(2019年)
上記は東日本大震災以降に起きた自然災害の一部であるが、これらは広域かつ激甚な被害をもたらした。
多くの企業や個人が、これらの自然災害に伴う人的・物的被害、ライフラインの途絶、サプライチェーン(供給連鎖)の寸断による事業の中断・生活困難の危機に直面した。
【熊本地震における経験】
今から約6年前、熊本県で地震があったことを覚えているだろうか。
2016年(平成28年)4月14日21時26分に最大震度7を観測する地震(前震)が発生し、さらに16日(土)1時25分には本震が発生した。
当時秋田県に勤務していた私は、上司からの勧めもあり、前震の起きた翌朝の飛行機で自宅のある熊本市内に帰省した。
熊本市内の商業施設は全て閉鎖され、コンビニエンスストアでは食糧・飲み物が全て売り切れという状態であった。
自宅の中の倒れた家具を片付けて、落ちついたところで本震がおとずれた。
「ドン」という突き上げの後、経験したことのない激しい揺れが続いた。
家が崩壊する危険を感じ、慌てて外に飛び出した。
電気も水道も止まり街全体がブラックアウト(一部の地域の停電)の状態となった。
気を落ち着けて自宅に戻り、防寒具と財布そして飲み物と懐中電灯、スマホとラジオをバッグに詰めた。
余震が連続する中で家の戸締りをし、隣の家の老夫婦を連れ、近所の中学校のグラウンドに避難した。
街中の人々が徒歩や車で中学校に避難し、続く余震に恐怖し怯えていたのを現在でも鮮明に覚えている。
夜空には、複数の自衛隊のヘリコプターがサーチライトを照らしながら飛び交っていた。
【皆様にお伝えしたいこと】
私が熊本出身であるということもあり、地の利を活かした損害調査、保険金支払の協定権を与えられ、現地での支払い対応に計3回従事した。
当時内閣府が発表した【今後30年以内の地震の起こる可能性】は10%未満であり、企業はおろか個人も十分な地震対策をしている人は少なかった。
企業がいくら災害対策を行ったとしても完璧な対応をするのは難しく、どうしても想定外のことが発生する。
そうは言っても、企業は出来る限りの災害対策をするべきだ。
つまり、今できる最大限の対策をしたうえで、災害を通して浮き彫りになった課題解決のために試行錯誤をする。
それを繰り返すことによってより良い備えとしなければならない、というのが感想である。
【企業でできる災害対策の例】
・従業員の安否確認
・災害に備えた従業員教育
・避難訓練
・サプライチェーンの複数化
・早期の営業活動のための企業向け地震保険の加入 など。
地震のみならず風水害等まで想定したBCPを策定している企業は、まだ多くないのが現状だろう。
企業や個人が、地震や風水災等の様々な災害を通してそれぞれの課題を発見し、対応を進めていくことが必要だ。
そして、これを繰り返していくことが事業継続マネジメント(BCM)におけるPDCAであり、災害対策の向上に繋がっていくと考える。
(※PDCAとは・・Plan(計画)、Do(実行)、Check(測定・評価)、Action(対策・改善)の頭文字を取ったもので、計画・実行・評価・改善の4つのプロセスを循環させることで業務効率化を進めて生産性をあげること)
COP21※によると、気候変動の影響により風水害が頻発・激甚化すると言われているため、風水害による大きな被害は今後も毎年のように発生しうる。
(※COP21とは・・・Conference of Parties(締約国会議)=地球温暖化の対策を講じるための国際的な会議)
自然災害の頻発による火災保険の収益悪化で、各損害保険会社もここ数年で複数回の料率改定(保険料UP)を行っている。
こうした状況を踏まえて、日本の企業は益々風水害を想定したBCPに対する関心が高まりつつあるのだ。
従来の地震対応マニュアルの整備だけでなく、風水害への対応事例の増加を踏まえ、風水害を想定する必要がある。
そして会社や業種の壁を越え、被災した他社の事例に学びその経験やノウハウを広く共有し、実効性のある事業継続マネジメント(BCM)の策定に取り組むことが肝心だと考える。
以上が今回、私が保険人として災害に関わったことで感じたことであり、皆様に是非知ってほしいと思ったことである。
「もしも地震が起こったら・・・」
「もしも甚大な水害に見舞われたら・・・」
そのような【”いざ”という時の対策】は十分だろうか。
自分事として、今一度考えてほしい。
また、過去のコラム【自然災害】東日本大震災の余震から考えること で地震に対する備えについても紹介しているため、ご一読いただきたい。